もっと早く読めばよかったと後悔
折に触れて読み返す。というよりは、風邪を引いたときに読む一冊として不動の地位にある小説。
はじめて読んだ時に、たまたま風邪を引いていたことや、作中で風邪が重要なテーマとなっている章(第四章『魔風邪恋風邪』)があること。
時々でてくるファンタジーな描写を、熱でぼぉーとした頭でスタジオジブリっぽくイメージしてみると、とても読みやすかったことなど。
そのような理由で、風邪で寝込んだ時はここぞとばかりに『夜は短し歩けよ乙女』と、コカ・コーラとしょうが(第四章参照)を用意して、風邪の神さまをお迎えすることにしている。
単行本が出版された当時は、書店の売り場で展開されていた【キュートでポップ!】などのキャッチコピーに抵抗があり、まったく読む気にはなれず……。
ようやく手に取ったのは数年後に文庫化されてから。当然のことながら、もっと早く読めばよかったと後悔。
いま考えてみると、キュートでポップで何の問題もなかった……。いったい何を考えていたんだ自分。
わたしは文庫版の漫画家の羽海野チカの解説(『かいせつにかえて』というイラスト)から入った人間なので、もちろん「黒髪の乙女」は羽海野チカ風にイメージして読んでいる。
奇人変人たち(キュートでポップ)を堪能する小説。
懐かしいような新しいような、森見登美彦のユーモアに満ちた独特な文体(好き嫌いがはっきりと分かれるかと)。
物語の中にいちど入り込めたならば、あとは「天狗」や「古本市の神」の類、さらには「パンツ総番長」なる者が登場しようとも、ページを繰る手を止めることは難しい。
そして、笑いをこらえるのは不可能であろう。
冗談なのか深いのか、おそらくその両方であろう名言が次から次へと出てくる。人生に役立つ名言かどうかはわからないが、思わず使ってみたくなる素敵な言葉であること間違いなし。
(かくいう私も、この文章を書きながら明らかに引っ張られていると思う。)
夜の歓楽街に夏の古本市、大学の学園祭や師走の街を、威風堂々と歩く黒髪の乙女。と、その後を追う先輩。
実際には数える程にしか接触しない二人の男女が、ずっと一緒に歩いているように感じる距離感がとても心地よい。
なによりも、ヒロインである黒髪の乙女の天真爛漫っぷりが、もはやファンタジーの領域に突入しているのが一番の魅力なのである。
本好きとしては、お目当ての本をさがして古本市をめぐる、第二章『深海魚たち』がお気に入り。
私の中にある京都
京都へは昔に一度行ったきりの私の中では、森見登美彦(と万城目学)の小説の舞台としての京都が、頭の中でそろそろ完成の域にまで到達しつつある。
変わった人がたくさんいて、日常の延長で不思議なことが起こる場所。
この先、実際に京都を訪れたらびっくりしてしまうかもしれない。
「え、意外と普通なんだな」とか思ってしまうのだろうか。
『夜は短し歩けよ乙女』が気に入った人に、個人的におすすめしたい小説は、小田雅久仁の『本にだって雄と雌があります』です。