増えるんだ。本は勝手に増えるんだよ。
本好きの言い訳のように聞こえるでしょうか?
いいえ、文字通りの意味であります。
あれは鳥でしょうか?
いいえ、あれは本です。
ユーモアの比喩表現としてのファンタジー?と思いきや、とんでもない、これは本当の話であると。ならば、ファンタジーとして異世界に連れて行ってくれるのか?と言うと、そこは微妙なのである。
舞台が大阪のせいか、登場人物の濃いキャラクターのせいなのか。むしろ現実感が強い印象。
まぁ、最後はとんでもない所へ連れて行かれるのだけれど……。
家族の歴史と愛について、そして本をめぐる物語
私(父親)から君(幼い息子)へというスタイルで語られる家族の歴史と、祖父の日記から明らかになる、とんでもない秘密。
主人公の祖父母は、書物に取り憑かれた男と、本を読まない女。かわいいとすら感じる、おしどり夫婦。
本があって家族がいて、そこに笑いがあれば、他に何もいらないのではないか。そんな気持ちにさせてくれる。
文字がびっしり詰まっていて、セリフは少なめ。しかし、語りの全てがセリフのようなもの、そんな読み方もできなくもない。
一度文章のリズムに乗ってしまうと、病みつきになるタイプの文体だと思う。
それにしても小説を読んでここまで笑ったのは、何年振りだろう?
思わず吹き出してしまった。
クスッとさせられたことはもう数知れず。
しかし笑って油断していると、後半いつのまにか物語の大きなうねりの中に飲み込まれていくことに。
おかしな与太話さえも伏線になり、すべてがつながっていくラストは圧巻。
ここまで笑えると、長編小説としてのバランスが失われそうなものだが、なかなかどうして、読ませるじゃないか。
仰天必至の長編小説!
この看板に偽りなし。私は無条件で降伏しました。傑作です。
小説の中に登場するたくさんの本
『本にだって雄と雌があります』には実在する本はもちろん、架空の本、幻書に混書から、登場人物たちが書いた自費出版のつまらない本まで、これでもかと大量の本が登場する。
(いかにつまらないかという説明が、これまた面白い)
本好きたちを唸らせ、ついつい本を収集してしまう癖のある人間に勇気を与えてくれる小説である。
「これからも、どんどん本を増やしていいんだ!」と。
ただし、書物の並びと本棚の隙間には細心の注意が必要である。
もしかしたら、見たこともない本が生れているかもしれない。
ミヒャエル・エンデ × サルトル
『はてしなく壁に嘔吐する物語』
誰か読んでみたい人はいますか?