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後宮小説 酒見賢一

日本ファンタジーノベル大賞

1989年に創設され、2013年からは休止中だった、日本ファンタジーノベル大賞が2017年より再開される。

個人的に、直木賞や本屋大賞と同じくらい楽しみにしていた文学賞なので、とてもうれしい。

ちなみに選考委員は、恩田陸、萩尾望都、森見登美彦。

酒見賢一の『後宮小説』は記念すべき第一回大賞受賞作品である。

なぜ日本ファンタジーノベル大賞が素晴らしい文学賞なのか?

その答え(というか原因)は『後宮小説』にある。

普通はファンタジーノベルというネーミングから、剣と魔法、指輪物語(現在で言うところのハリーポッター、スタジオジブリ)路線で行きそうなところ。

しかし、当時の選考委員があっぱれだったのか?空気が読めなかったのか?

そのあたりはよくわからないけれど、第一回から『後宮小説』という異色の傑作を出してしまい、日本ファンタジーノベル大賞はそこからジャンル不問、なんでもアリというスタイルの文学賞へ。

その後の受賞水準レベルの高さにも、応募作品の傾向にも、この小説が与えた影響は大きいと思われる。

シンデレラ+三国志+金瓶梅+ラストエンペラーの面白さ

当時の単行本の帯にはこう書いてあった。現在ならシンデレラと金瓶梅を、大奥という言葉に置き換えても良さそう。

物語の最初の一行はこうである。

腹上死であった、と記載されている。

大奥がエンタメとして受け入れられた現在ならば、『後宮小説』はあらためて多くの読者を獲得できるのではないだろうか?

17世紀の中国(おそらく)を舞台にした架空の王朝『素乾国』をめぐる物語。

まず、語り手が後世の小説家(歴史家?)という設定がすごく効いてる。

史料や文献を頼りに語るのだが、歴史に対する距離感が、何とも言えず良い感じ。

貴重な史料をちょっと小馬鹿にしたり、当時の文化風習に身も蓋もないツッコミを入れたりと、現代の読者目線で楽しませてくれる。

まぁ、その史料そのものが作者の創作なのだけれど……。

私もどこまでが中国や周辺諸国の歴史や文化なのか、どこからが創作なのか?はっきりとわからなかった。

ひとつの国の歴史、複数の登場人物の半生や生涯を書くのだから、壮大なスケールになりそうだが『後宮小説』はとてもシンプルなところが魅力である。

飄々としてユーモアたっぷり、爽快な物語に仕上がっている。

【本当】と【嘘】のバランスが見事すぎて、歴史小説でも架空の歴史ファンタジーでもない、唯一無二の『後宮小説』として楽しみ、途中で本を閉じることができないイッキ読みの快感を味わせてくれた。


1990年に『雲のように風のように』というタイトルでアニメ化されたようだが、一体どうやって?というのが感想である。大胆なアレンジでも加えたのだろうか?

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