『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』
不可解な事件の謎。登場人物の魅力。驚きの真相。
ほとんど(固有名詞が覚えにくいことを除けば)文句なしの傑作ミステリー。
最初は各章で読みづらい名前の人物が次々と登場するので、スラスラと読めるわけではないけれど、気が付くと短いエピソードにのめり込んでいる。この繰り返しが丁寧に読み進めようという信頼につながってく。
体感としては前半はじっくりと読んで、後半にイッキ読みといったところか。
名誉棄損で有罪判決を受けたばかりのジャーナリスト、ミカエル・ブルムクヴィストの元に舞い込んだ、大企業ヴァンゲル・グループ元会長からの奇妙な依頼。
それは、三十六年前に起こった失踪事件の調査。
関係者であり被害者、そして加害者の可能性もあるヴァンゲル家の人々。
一族の家系図まで登場する、その複雑な関係と歴史。
資料や証言、写真など、ジャーナリズムの手法で真相に迫るミカエル。
彼が「ヴァンゲル性の人たちがあまりに多いので、誰が誰だかわからないのですよ」とジョークを言った時には、それはこっちのセリフだよ、と思わず笑ってしまった。
そして同時進行する、もう一人の主人公であるセキュリティ会社の調査員、リスベット・サランデルのパート。彼女の存在が普通の犯人探しミステリーとは違った魅力とテーマをこの小説に与えている。
独自の倫理観に基づき、あっさりとルールを飛び越えるリスベット。
特徴的な外見、複雑な内面、謎めいた過去。
個人的には、彼女はいったいどのような人間なのだろうか?という興味こそが、物語を読み進めるいちばんの動機となったような気がする。
一流のジャーナリストと凄腕ハッカーのコンビ。この頭脳明晰な二人の主人公は、意外にも脇の甘さや間の抜けたところもあって、いわゆるキャラ読みもできるという愛すべき逸材。
正反対の二人が出会ってからの、物語が一気に動き出す展開には本当にワクワクさせられる。
真相が明かされた後のエピソードも最高で、ラストの淡々と執行されるリスベットの行動はまさに痛快。
女を憎む男たち
著者のスティーグ・ラーソン自身も元々はジャーナリストであり、この小説には自らが関心を寄せる社会的なテーマと、明確なメッセージを見てとれる。
驚くのはそれをエンターテインメントに落とし込む、優れたバランス感覚ではないだろうか?
『ミレニアム1ドラゴン・タトゥーの女』の原題は『女を憎む男たち』であり、そんな女を憎む男たちを叩きのめす女、というカタルシスを存分に味わうことができる小説。
シリーズを通して一つの作品とも言える【ミレニアム三部作】
特に第二部を読み終えた読者は、すぐにでも第三部が読みたくなること間違い無しなので、あらかじめの準備をおすすめします。