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疫神 川崎草志

アフリカで発生したオレンジカビの謎

『疫神(やまいがみ)』は、数年後に書かれた続編(と思われる)『誘神(いざないがみ)』というタイトルの別の小説と、合わせて上下巻といった印象。

それぞれ【新種のカビ】、【新型のインフルエンザ】が脅威となる世界を描いている。

コロナの時代にあっては、間違いなくリアリティとゾクゾク感が増してしまった小説ではないだろうか?

まぁ、現実の方がよりリアルでより酷い、という意見もありそうだけれど……。

グローバリゼーションという現代文明そのものが感染を広げてしまう皮肉。専門家が「わからない」を連発する恐怖。

しかし、この小説を「コロナ禍のいまこそ読むべき小説」みたいな感じで、アルベルト・カミュの『ペスト』や、スティーブン・ソダーバーグ監督の映画『コンテイジョン』のようにオススメできるかと言えば、ぜんぜん、まったく、そんなことはない!

『疫神』はパンデミック小説というよりは、ホラー、オカルト系のミステリーである。社会の混乱や、絶望する人類が描かれているわけでもない。どちらかと言えば個人的かつ局地的。エンターテインメント色の強い小説である。

そこには科学的な予言(かなりラディカル)があり、疫病と人類の歴史を通して根源的な生物としてのヒトに迫っていくのだけれど、なんというかアプローチの仕方が違うというか……。



CDC(アメリカ合衆国疾病予防管理センター)の研究員がオレンジカビの謎を追っていくストーリーを柱に、日本の田舎町に住む幼稚園児の視点と、ひっそりと隠れるように暮らす特異体質を持つ夫婦の話。この3つのパートが別々に進行し、やがて予想外の交わりをみせる。

この小説は、【始まりの始まり】という章から物語はスタートし、【始まり】という章で終わる。この2つだけで、その間も無いし続きも無い。これは続編『誘神』でもまったく同じ構造である。収束はするが決して終息というわけではないのだ。

個人的には【終わりの始まり】という印象が強く残る物語であった。

人類の進化や滅亡について、という大好物の世界観なので評価は甘くなるのかもしれないけれど、私はアッという間にイッキ読みしてしまった。

まぁ、この手のジャンルには明確な結論を求めていないので……。


『誘神』と合わせて上下巻と書いたけれど、著者にはぜひとも続編を書いて三部作にして欲しい。

冗談でも比喩でもなく、変わってしまったこの世界で、いったいどんな物語を書くのかとても興味がある。

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