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ぼぎわんが、来る 澤村伊智

恐ろしい小説である

『ぼぎわんが、来る』の何が恐ろしいって、種類の異なる怖さがいろいろ入ってるところではないだろうか?

普通はたくさん詰め込んだからといって、その分怖くなるわけではないのだけれど……。

何かが、じわじわと迫ってくるような、気配を感じる日本的な怖さ。

意識高い系による、サイコスリラー的うすら寒さ。

「結局のところ、人間がいちばん怖い」というタイプの、ドロドロとした感情。

言葉や想い、我慢や怒りが、やがて呪いとなるメカニズム。

おまけに洋画ホラーのような、アクション要素もミックス。

そのものズバリを出してしまうという、これをやってしまうと日本的な怖さが持つゾクゾク感が表現しにくいところではあるが、これらを共存させてみせるバランス感覚。

物語の核心に辿り着くまでのミステリー要素と、アッと驚く意外性。そしてキャラクターの魅力。

ホラーエンターテインメントとして、完成度の高さが際立っていると思う。

返事をしてはいけない

少年時代に祖父母の家で体験した怪異が、大人になり、自分の子供を持ったことで動き出す。

家族のもとに、遠くのほうからやってくる、得体の知れない何かと、不可解な謎。

第一章から第三章まで、それぞれ「訪問者」、「所有者」、「部外者」というタイトルが付いている。

それぞれの章で語り手と視点の変化があり、そのことによって物語の見え方が大きく転換する。

そして、それらをまとめ上げる構成力。起承転結どれを取っても、わたしの中にある根源的な何かを刺激する。

「何を今更言うてんねんな。あんなえらいもん、呼ばな来ぉへんやろ」


じわじわと、おどろおどろしく、やってくる、あれ。

科学的な態度と、民俗学的なアプローチ。土着信仰に伝承、オカルトや心霊の不気味さ。バラバラだったピースがはまっていく快感と、思わず後ろを振り返ってしまうような緊張感。

寒気、不安、怯え、畏怖。

これは恐怖のオンパレードであり、しかも読む人それぞれに、怖いと感じるポイントとなる、核のようなものが見つかる小説ではないだろうか?

ラストのアクション展開は好き嫌い分かれそうだけれど、キャラ立ち、エンタメ、シリーズ化といった意味で大成功だと思っている。

デビュー作である『ぼぎわんが、くる』以降も、続編やスピンオフ作品として、比嘉姉妹シリーズ、オカルトライターと霊媒師のコンビものとして、長編小説、短編小説といろいろあるので、楽しみが広がり続けている。

個人的には、特にこれといったオチのない実話系の怪談が一番怖い、というか怖すぎて読めないので、ホラー小説としてこのくらいがベストである。

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