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堆塵館 エドワード・ケアリー

アイアマンガー三部作、第一部『堆塵館(たいじんかん)』

子供の頃に読んだ童話や児童文学を、大人になってから読み返して「こんなにも深い物語だったのか」と気付かされることがある。

しかし同時に、あの頃の未知なる物語に触れたときの驚きはもう戻ってこない。

もう子供ではないのだから当然なんだけど……。

この気付きと感覚を大人のまま楽しむことができるのが、アイアマンガー三部作のすごいところだと思う。しかも、はじめて読んだのに何故か懐かしさがこみ上げてくるというおまけ付き。

それから、引き込まれるような挿絵の魅力。このあたりも子供の頃の感覚が戻ってくる要因の一つなのかもしれない。登場人物のイラストは想像力が制限されることになるので、個人的にはあまり好まないけれど、エドワード・ケアリーの場合は別である。

蝶ネクタイをした不健康な少年の肖像画】という自らが描いた一枚の絵を元にして、この長編小説が書き始められたという驚くべき事実。


十九世紀、大英帝国の首都ロンドン。

ロンドン市郊外にあるフォーリッチンガム地区。

そこにあるのは広大なごみ捨て場。

ごみでできた屑山にそびえたつ巨大な館、廃材と不用品を再利用した豪華(だけど歪)な堆塵館。そこにはロンドン市内の全てのごみを引き取る権利と管理権を持ち、ごみで莫大な富を築いたアイアマンガー一族が暮らしている。


物語のカギとなるのはものとの関係。一族の人間には、生まれた時に与えられる『誕生の品』と常に一緒にいなければならないという絶対的なルールがある。自分では選ぶことができない誕生の品。中には特に役に立たないもの、ごみ同様の価値しかないものもある。生涯続くものとの関係が登場人物たちの人格形成にまで影響を及ぼし、不気味でチャーミングな奇人変人たちを生み出している。

肖像画とこの誕生の品の設定だけで、なるほどケアリーならば長編を書けるだろう!そう思わせるユニークな作品世界。


行方不明になった叔母の誕生の品(ドアの把手)をめぐる大騒動の中、誕生の品の話す声を聞くことができるクロッド・アイアマンガーはある日、自分の名前しか話さなかったものが、はじめて別のセリフを発するのを聞く。

純血アイアマンガー。混血アイアマンガーの召使たち。そこにやってくる非アイアマンガー(一般人)。アイアマンガーだらけの館が小さな街にすら見える。ごみの海と山を探索するお宝ハンター的な描写は圧巻。

大切なものがごみとなり、ごみが大切なものになる。見捨てられた人やものが一か所に集められるといったい何が起こるのか?

すべての原因である誕生の品の謎に迫る物語であり、

与えられ、見失い、取り戻す、名前をめぐる物語。



基本的にひとりに付き二つの名前をもっている計算なので(しかも登場人物が多い)、

クロッド・アイアマンガー。誕生の品、浴槽の栓(ジェームズ・ヘンリー・ヘイワード)】

こんな感じで登場人物をメモしながら読んでいくのがおすすめです。


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