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夜市 恒川光太郎

此処ではない何処かへ

第12回日本ホラー小説大賞受賞作である『夜市』と『風の古道』二つの中編小説を収録。

実を言うと、わたしは表題作となっている『夜市』以上に、書き下ろしの『風の古道』という作品が大好きである。

しかし、そこには『夜市』という作品を読んで魅了され、できることならその先を読んでみたいと感じたことが、大きなポイントになっているような気もする。

本書の収録順が、『風の古道』、『夜市』という順番であったら、読後まったく違った余韻を味わっていたかもしれない。

それぞれが、独立した一つの小説であり完結もしているが、共通点(あるいは対比すべき点)も多く、二つの物語がお互いを引き立て合っている。これが意図的かどうかわからないけれど、一冊の書物として読み応えが凄いことになっている。

特筆すべきはやはりどちらも、此処ではない場所というものが描かれていること。

強い意志を持ってそこに飛び込む人間。迷い込んでしまった人間。元々そこにいる者たち。

『夜市』は向こうの世界に行く物語。

『風の古道』はこちら側の現実世界と向こう側の世界、その隙間にある道についての物語。

望むものは何でも買うことのできる夜市と、そこからは何一つ持ち帰ることのできない古道。

二つの小説を並べて読むことで浮き上がってくる、うまく説明できないコントラストのような部分で『風の古道』のほうが個人的に好みだと感じているのだと思う。

そこを通ることのできる人間は、ほんの一握り。

他の人々には見えていない道。

その道は家々の路地裏を通って、国道を横切り、深い森を抜ける。はるか昔から、日本中に張り巡らされている、神々と異形の者たちが通る古道。

そこに迷い込んでしまった少年と、古道を放浪する青年の物語。

『夜市』のミステリー的なおもしろさと、幻想的な魅力に対して、『風の古道』は細かい部分でここが良いとかよりも、その世界の成り立ちと仕組み、そこにあるルールなど、容れ物そのものが好きという感じだろうか。

豊かな想像力はもちろんのこと、その前の段階で浮かんできているであろう発想。これはもう恒川光太郎的としか言いようのない作家性。

奇想天外なストーリー、世界の内側と外側。

時折でてくる、とても根源的な悪意や暴力。

年若い人間の持つ、考えの浅さや残酷さなども上手く表現されていて、はっきりとした悪や怪異とはまた違った怖さのようなものを感じる。

しかし、不思議なことに読後感は悪くない。

どこかノスタルジーを感じるのは私が怪異という存在を、もはや現代には無いものと認識しているからだろうか?

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