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闇の守り人 上橋菜穂子

喪失と再生の物語

『精霊の守り人』から始まる【守り人シリーズ】の第2弾。

おもしろかった小説を紹介する時に、シリーズ物の第2作目をオススメするのもどうかと思うのだけれど……。

しかも、わたしはアニメ『攻殻機動隊S.A.C』シリーズなどで知られる神山健治監督のファンで、神山監督によるアニメ版『精霊の守り人』をみて、その続編である『闇の守り人』から【守り人シリーズ】を読み始めるという、とても変則的な入り方をした人間なので、あまり偉そうなことも言えない。

でも、やっぱり【守り人シリーズ】の中でも一番好きなのでしょうがない。

ちなみに『闇の守り人』の文庫版では、解説を神山監督が書いている。

『精霊の守り人』をアニメ化するにあたって、なぜ脇役であるバルサの養父「ジグロ」のことを深く掘り下げているのかが良くわかる、熱い解説を読むことができる。

シリーズ中、最も大人向けでシリアスでダーク。

そして、素晴らしく感動的。

生まれ故郷に戻ったバルサ

主人公バルサとその養父であるジグロの故郷、険しい山脈にある貧しい小国、カンバル王国

その山脈の地下に、クモの巣のように存在する洞窟と水脈。こちらは【山の王】が支配する闇の王国

『闇の守り人』は我々が暮らすこちら側の世界と、我々の力の及ばないあちら側の世界、二つの世界の失われたつながりを取り戻す物語である。

世界中の国と民族、文化、風習、歴史など、多くを下敷きにして物語を構築しているのだと思うけれど、読んでいて感じるのはやはりオリジナルな世界観。

一つの国のその成り立ち、伝承、習慣、気候、食事など、細部のリアリティで読者を別の場所へ連れて行ってくれる。

個人的には、小さな人びと【牧童】や、さらに小さな兄弟である【オコジョを駆る狩人】が登場してきたあたりで、完璧に別世界に入り込むという、子供の頃にしか体験できなかったような感覚を再び味わうことができた。



あちら側(非現実の世界)のフィルターを通して、答えを得る。

この手の手法を使うと、ロジカルな読者には納得のいかないことが多いけれど、『闇の守り人』は良質なミステリーのように伏線と回収がさりげなく行われており、いくつもの何故?に明確な答えを与えてくれる。小さな国の話ではあるが、世界の仕組みがわかっていくような快感がある。

また、精霊などの大きな存在から人間に与えられる恵みが、意図的なものなのか、たんなる自然現象なのか、どちらにも解釈できるようなところが残されていることにも、私はとても魅力を感じた。


闇の守り人と、山の王の正体。

予想もしなかった過去との対峙【槍舞い】のシーンと、幻想的な【ルイシャ贈りの儀式】の光景。

物語の終わりに向けて、ページを繰るほど面白さが増していく。

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