春が二階から落ちてきた
私が初めて読んだ伊坂幸太郎作品。
書店で【なんだ、小説まだまだいけるじゃん!】という『重力ピエロ』の帯文に惹かれて読んだのがきっかけだったと思う。以来すっかりファンになって、新刊をハードカバーで読む作家として追い続けている。
それだけではなく、恐ろしいことに伊坂幸太郎は時々、小説に後から加筆修正を……。
同じ小説とは思えないくらい大幅に改稿した、文庫版『モダンタイムス』に衝撃を受けてから、私は念には念を入れて単行本から文庫化したタイミングで再読するようにもなった。
まぁ、作品の中に近未来の小ネタを入れてくることも多いので、数年後にその答え合わせも兼ねて読み、自分の感じ方の変化に気付くのもまた楽しい。
『重力ピエロ』が出版されてからもう十五年。
あらためて再読してみると、いろいろと新しい発見があったけれど、何といっても相変わらず面白い。
初めて読んだ時は、連続放火とグラフィティアートの謎と、主人公の弟「春」のクールで達観したキャラクターに惹かれてのイッキ読み。
ミステリーとして読みながら、この小説は普通のミステリーとはちょっと違うぞ、というワクワク感。
ストーリーが既にわかっている再読では、個人的にはごく当たり前のように家族の物語として読んだ。
親子と兄弟の絆。子供のころの兄弟のエピソードが微笑ましく、ちょっとした気休めとユーモアが愛おしい。
なぜ今ごろ気が付いたのか?
とても魅力的な人物である父親の存在。
しがない公務員であり、中肉中背の平凡な男。
なんだ、いちばんカッコいいじゃないか!お父さん。
なんて思ってしまった。
私にとって伊坂幸太郎の小説の魅力は、よく言われている伏線と回収や洒脱な会話以上に、人の好さや親切心のようなものを読んでいて感じるところである。
平凡で心配性の小市民と、すべてを悟ったかのような超然とした人物。
ささやかな日常と、突拍子もない出来事。その対比とバランス。
極端な話、たとえミステリーとして最終的に結末がイマイチだったとしても、物語を楽しむことができて読後感も良いところが好き(褒めてます)。
『ゴールデンスランバー』以降、インタビューなどで「自分がワクワクすることに挑戦したい」と言い続けていることからも、今後は多くの人に受け入れられるというより、もっと個人的に愛好される作家になっていくのかな?と、思ったりもしたり……。
本人も、自分が好きなロックバンドが新しいスタイルの音楽にチャレンジすると「変わらなくていいから!」とか思うので、読者の気持ちはわかるんだけど……。みたいなことを言っていて、なんだかとても伊坂さんっぽくて可笑しかった。
初期のころからリアルタイムで読み続けてきた作家であり、世代も近く自分のまわりにもファンが多い。伊坂幸太郎は我々の作家である。そんな気持ちが強い。