見えない壁と暗黙のルール
本を読んで、未来や宇宙を想像する。
子供の頃は、いったいどうやっていたのだろう?
いつしか想像する内容に、現実という制限がかかるようになり、SF小説が苦手なジャンルになってしまった。
まぁ、うまくイメージできないということである……。
しかしここ数年、SF小説にチャレンジしてみると意外に読めるということを発見して、読書の幅が広がった。その理由は、デジタル技術(映像)の進化と言ったところだろうか?
個人的に「最近は映像的な文章を書く作家が増えたなぁ」と感じていたのだけれど、よくよく考えてみるとそれは正確ではなく、読者として私の方が映像的になったというのが、より正しい感想なのかもしれない。
極端な例をあげると、映画『アルマゲドン』を観たことがあれば、小説の中で「隕石の破片がアメリカの大都市に落ちてくる」という描写に出合った時に、なんとなく映像が浮かんでくるようになる。
特にハリウッド超大作などは、内容はさておき最先端の技術を使用した迫力の映像、そのビジュアル面での影響は馬鹿にできない。
それが良いことなのか悪いことなのかはわからないけれど、個人的にはSF小説を読むにあたって大いに役立っていることは確か。
SF小説を楽しめるようになり始めた。
そんな私の出鼻を全力で挫き、完膚なきまでに叩きのめした小説が、チャイナ・ミエヴィルの『都市と都市』である。
舞台は、外国から訪れる観光客に入国前の試験を課す【ベジェル】と【ウル・コーマ】という小さな都市国家。
特殊な環境であることを除けば、普通の警察小説スタイルなので読みづらいこともないのだけれど……。
とりあえず、ひとつの小さな都市国家の中に、二つの国がモザイク状に同時に存在するということがいまいち理解できない。
しかし詳しい説明は無いながらも、完全、異質、突出、紛争地区、クロスハッチといった場所や領土や境界を示すカッコいい造語がたくさんでてきて、なんとなくわかったような気分にしてくれる(笑)。
二つの都市の境界を超えるブリーチ行為と、それを取り締まる組織ブリーチ。
都市と都市の間にあると噂される【オルツィニー】という第三の都市。
この二重都市の重なり合う世界観。
これは、頭の中のデジタル技術を使うべき案件なのか?
最初はどんな世界なのだろう?と想像していたけれど、途中からいったいどんな映像にすれば、そういう世界に見えるのだろうか?と考え始める。自分でも何だかよくわからない読書体験。
もしも解説やあらすじを読んでから『都市と都市』を読んでいたならば、間違いなくこんな感想にはならなかったはず……。
英国SF協会賞/クラーク賞/ローカス賞/世界幻想文学大賞/ヒューゴー賞(と表紙に書いてある!)など、SF・ファンタジー主要各賞を独占で、ハヤカワ文庫SFから出版されている。というのが、そもそも私にとってはミスリード。
しかし、フランツ・カフカ的!や、カズオ・イシグロ絶賛!という文章を事前に見かけていたら、それはそれで、全く別の読み方をしていたような気もする。