古川日出男と言えば、常に第一線で活躍している小説家。当然のことのように文学。さらに細かく言うと、現在は前衛やアート寄りの作家であると認識されているのではないだろうか?
私自身はそう思っているし、最近はなんだか詩に接近しているような気もする。
独特なリズムと疾走感のある文体。時に小説という形式そのものに挑戦するかのような実験的な手法。
読者を選ぶというか、かなり先の方を走っている印象。
しかし、古川日出男=文学(読みづらい、難解)であるとして、エンタメやミステリー好きの読書家たちが、『13』を読み逃しているのだとすれば、それはあまりにも惜しいことではないかと……。
日本推理作家協会賞と日本SF大賞をダブル受賞した、代表作にして大長編『アラビアの夜の種族』
を途中で挫折した私の友人も絶賛した、古川日出男のデビュー作『13』という傑作。
リーダビリティ―が高く、文字がびっしり詰まっているのにページを繰る手が止まらない。先が読めないストーリー展開と、圧倒的な情報量に自分の中のあらゆる好奇心が刺激され、そして充たされていく。
小説は二部構成にして、対極の世界観
そして二つをつなぐ色彩の物語。
第一部、ザイール共和国の熱帯多雨林の森。狩猟採集民、左目だけ色弱の少年、黒い聖母。
第二部、アメリカはハリウッド。映画監督、女優、ミュージシャン。
世界文学?幻想?ミステリー?ジャンル分け不可能な気がするけれど、古川日出男の小説の中でエンターテインメントと呼べるのは、ほとんど唯一この作品だけではないかと個人的には思っている。
あらすじを説明しても『13』の圧倒的な魅力は伝わらないと思うので、冒頭の文章に惹きつけられて、物語の世界に入ってしまうのが一番手っ取り早い。
とんでもなく濃密な細部の描写が、荒唐無稽なストーリーにリアリティーを与える、その瞬間に立ち会うことができる。
そして、小説全体にちりばめられている色彩に関する考察が素晴らしい。特にムンドゥの森の描写がすごい。
原始の色や自然の色、現代の色、最先端技術で作り出される色。
私たち人類は本当にアフリカからやってきたのだ。読んでいて、しばしそんなことを感じた。
とても残念なことだけど、現在絶版のようです。
1968年に東京の北多摩に生まれた橋本響一は、26歳の時に神を映像に収めることに成功した。
この書き出しにグッときたら、ぜひ図書館や古本屋で探して、そして出合ってほしいと思います。